No.10「風評被害対策と教育・意識改革の提言」
2012年3月26日 尾島正男
1、本プロジェクトの活動の狙いと現在までの結果
現下放射能汚染などの風評被害は日本経済復興の極めて大きな障壁となり、東電の補償・賠償の問題は政府・経済界・学会で意見対立して長期化している。また震災・津波対応のリスク管理の弱さが明るみにでて、日本人の教育・意識改革の必要性が強調されている。我々は課題7PTと合同で集中的に取り組み幾つかの重要課題につき提案を纏めました。
2、プロジェクトメンバー
青木康子、石原幸正、小島克己(サブリーダー)、外山樗V、佐伯和良、大木荘次、
寺川彰、尾島正男(リーダー)
3、実施経過
8月〜本年2月9回
(8/11,8/25,9/9,9/22,10/13,11/17、12/13,1/31,2/22)の合同会合で討議した。
4、重要検討項目
4−1、放射能の基礎整理と測定値と安全基準。
@ 定義を明確に」放射線とは、α・べ−タ・ガンマ・中性子線、放射性物質とは、放射能を持つ物質、放射能とは、放射線を出す能力である、――図解で明示した。
A 放射線測定器」クリアパルス社製・Mr.Gamma A2700―横浜市貸出しあり、実測データ−採集、
B「放射線許容線量」1ミリシーベルト/年間(8760時間)
C「食品のセシウム放射能基準値」、など14項目の簡単な解説したテキストを紹介した。
4−2、風評被害の定義と具体的事例・対策提案。
{風評被害の定義}は「汚染等が大きく報道され、本来安全な食品等が危険視され消費を止める為の経済的被害」である。その発生のメカニズムは、住民心理「危険」・「うわさ」・「加害者」等による。
{風評被害の事例:過去と今回}@JCO臨界事故(1999)、A所沢ごみ処理(1999)、
B 福島県産の米・果物等(現在)、C「日本ブランド」への危険視、D東北被災瓦礫処理拒否。
{我々の防止対策の提言}@放射能汚染被害の判断基準、A放射能の基礎知識テキストによる教育、B政府・役所の情報開示迅速、C自ら放射線測定器で確認、D過去の隠蔽体質を改めてオープンさの意識改革推進。
4−3、原賠法の構成と補償・賠償の政治・社会的責任
{原賠法・原損賠支援法と今回の適用}
○1961年制定の原賠法は被害者保護で事業者の無過失責任主義で賠償責任(3〜5条)を。
○免責・異常に巨大な天災(3条@)は「隕石の落下」で不適用のため補償は東電の賠償責任で。
○2011年8月成立の損害賠償支援機構法により、国の社会的責任で東電を支援して、保険の1200億を越える数兆円の賠償金の仮払いを開始した。 ―詳細は課題7の報告を参照
{合同プロジェクトでの提言}
○未曾有な被災者にスムースな補償支払い促進
○今回の抜本的原発安全対策樹立で世界に貢献し、原子力産業維持発展を支え日本再生に貢献する
4−4、 福島第1原発事故に至る人災的要因と反省(今回の教育・意識改革の根拠とする)
{安全神話・想定外・コスト優先安全無視}
東電・政府・官庁・専門家のみならず国民すべて責任と猛反省と意識改革の問題点を以下討議。
1、2006年4月衆議院・吉井議員の津波対策無視。−自・公明与党と民主野党共に日本の原発は大丈夫と安全神話の虜、報道も国民も疑問を持たず。
2、2011年5月IAEA(国際原子力機関)福島第1原発視察後の指摘5グループ28項目あり、a非常用電源停電対策なし、b水素爆発防止・格納容器ベントシステムなし、c複合自然災害(地震・津波−リスク管理・防災管理)。
{自助・共助・公助の緊急リスクマネジメン体制提案}
2011年5月浜岡原発停止の政府対策(公助)以外に地震・水害時のハザードマップ・避難訓練・教育を提案。 ―課題8の報告に共通する。
4−5、日本のリスク管理の甘さと教育・意識改革計画の策定―災害リスク管理者設置等―
{リスク管理スキル向上ニーズ}
管理の手順:把握・特定・発生確率・影響度により評価・改善(回避・低減・移転・保有)のプロセスとリスクコントロールする。
{危機管理(資産・活動・人命に重大なリスク)の4ステップ}
@準備:体制の整備・A計画:マニュアルの策定・B活動:強い組織・役割と訓練・
C実務:情報・分析・対応・広報――ー今回何れも不足で損失絶大。
{リスクファイナンスによる移転}@保険:原理・種類(公的・私的)・Aオプション・Bスワップ等
{提言・公的及び個人的意識変革と教育}@政府・役所・企業夫々に防災・減災対策をリスク・危機管理手法の教育と訓練の継続的実践をルール化する。(ハザードマップ活用等)。
A国民全体に今回の災害の教訓を子孫に伝言、地獄絵を描いて意識を風化させない運動を。
5、メンバーの感想
1、今回の原発事故が天災ではなく人災である、想定外と言われていたが実は想定内であり、原発関係者の驕りと怠慢であったと議論を通じて分かってきました。 熱い討議に参加できたことに感謝しています。−小島克己氏
2、損保にいて賠償責任保険を担当していながら、初めて風評被害を理論的・経済的に究明する学問を知り、関谷教授の論文を紹介され、輪読し、討議し感じ入りました。−竹内啓介氏
3、各種分野の方々と実のある議論が出来たことにHEARTの会員としての意義を実感しました。今後にわたり、放射能の医学的な影響調査、其の他関連情報・統計の収集・分析を通じて、信頼できる統計的・科学的データを蓄積することを希望したい、適切な風評対策に予算を配分すべき。−石原幸正氏
4、いわゆる原子力村では技術者の常識の通用しない考え方や実態があることがわかった。実際に原発から250km以上離れた我が家のMr.Gamma A2700による測定で屋外の樋出口0.342μSv/h、室内0.05程度と高かった。原発による被害はあまりにも大きい。日本が壊滅する事故が起こりうる。原子炉圧力容器内壁の鋼は中性子照射脆化で劣化する。現状では隠蔽体質も続き改善されたとは考えにくい。従って、脱原発、エネルギーが足りなければ後戻りすればよいと考えるようになった。−佐伯和義氏
5、設備全体の企画者に、全停電を考えた設備計画は、計画を断念するほどの投資費用を高める場合がある。広く組織経験を引き継ぎ、歯止めとなるCheck and Balanceを採れる客観性を備えた体制が必要である。課題7および課題10の活動で、竹内啓介氏より、損害保険企業の業務に、損害発生の予想と実損発生額の把握見積と言う業務があることを指摘された、横断的に組織単位を超え広がり、保険料コストと設備コストの市場原理のリスク管理が可能で、実質的な展開に進む必要があろうと感じた。
−外山樗V氏
6、今般9回の合同ミーテングの震災プロジェクトの討議により、異質の体験と文化が極めて広範囲に交換できた。かつ詳しい情報を持ち寄り輪読等で深い認識と意見の交流によりエンジョイした。各課題は範囲が広く現在状況が流動的なので、外部に具体的提案するには、未だ煮詰めを要します、しかしお互いの意識を改革でき活性化となった。メール参加のメンバ−も含めて熱心な討議に感謝いたします。 −リーダー・尾島正男