No.7 「直接間接の被災に対する合理的な補償賠償の策定」

                      2011年3月26日 圓山壽和

1.はじめに・今回の最終報告にあたり
 今回の報告は、会報67号及び68号に掲載された中間報告の続編であり、最終報告というより3回目の中間報告と理解していただきたい。
 未だ当チームとしては結論を纏めるには至っておらず、現状は各メンバーからはここへ来て、独自の経験から来る意見開陳が始まっているとも言える。また、与えられたテーマに即して、具体的に補償・賠償の策定をすることは、その内容の大きさから我々の手に余ったこともあり、討議の進行は側面からの課題検討に終始することになった。 
 従って、当チームとしては今回の鞄結椏d力・福島第一原子力発電所事故の損害賠償について、当初から政府、東電の動き、更にメディアの論調を注視し、それらの適否を判断し、自らはどう行動していくか、そのための共同討議の場を生み出し活性化させていくことが、自分たちに今できる価値あることだと共に理解し活動してきた。
 このことより、今回の報告も前2回の報告同様、当チームの活動内容を記すものであることをお許し願いたい。ただし、今回の報告が締め括りの場であることより、これまでの中間報告を補足することも含め、チームとしての討議の到達点を記すことをもって最終報告にさせていただきたい。


2.プロジェクトメンバー(課題10チームと合同であったが当チームのみ掲載)
  石原幸正、尾見博武、竹内啓介、森義弘、安部忠彦、圓山壽和(リーダー)

3.課題7チームの目指したもの・この間の討議を経て補足できること
 今回の原子力発電所の事故の賠償を巡っては、当初からその賠償責任の主体も含め、被害者救済を円滑に推進するため、論点整理することが求められていた。事業者責任を有する鞄結椏d力と、民間事業者に対する指導監督責任を有する国の関係は、今回の事故以前の本来の法的スキーム(原子力損害賠償法)にどうであったのか、また、今回の事故後新たに原子力損害賠償支援機構法が目指されたが、その狙いがどこにあったのか。しかしこの面で、新聞、テレビなどを通しての情報の場合、専門用語が多く論旨が難解の上、その主張は責任追及や政治的表明に比重が置かれていた。
 従って、国民がその立場(電力消費者であり納税者である)を踏まえ、応分の負担を結果として引き受ける覚悟で、積極的にこの賠償問題を理解すべく論議に参加しようとしても、先ずその論点整理=土俵そのものができていないという現状に突き当たっていた。
 このことより自ら一国民の立場に立ちつつも、それぞれの専門的知見、人脈等を活用して、自分たちの手で、鞄結椏d力のみならず結果として国家財政そのものすらも飲み込んでしまう恐れのある被害者救済・賠償責任の履行について、合理的なあり方を広く討議し検討していくことにした。
 併せて、このような討議の場を設けることで、チームメンバーがお互いの知見を披瀝しあい、今回の大災害が人災でもある面を見つめ直し、社会的存在でもある一個の人間としても自己の立脚点を省みていくことにした。
 ところで、当課題7チームの設置に当っては、大震災発生間もない混乱した状況・背景の中、本会の今回の提言取組みにおいて、当初のはがき提言(平成23年4月27日付け往復はがきで会員対象に募集)で当賠償問題について、竹内啓介・会員から問題の所在を鋭く突いた「東電に上限なしの第一義的賠償責任を取らせるのはいかがなものか。」がなされたことが発端になっている。
 竹内・会員は経歴(元東京海上火災保険鰹務取締役)において、我が国の原子力エネルギー導入の頃、原発事故時の国と事業者の責務を定めた法案作成の経緯を熟知しうる立場におり、今回の菅・首相等政府の対応には怒りと違和感を強く感じていた。今回政府が、現行原子力損害賠償法の適正な解釈を即やらなかったことで、素早い救済が困難となったことや賠償の支援スキームが不明確になったことなど、一貫して警鐘を鳴らし続け、当課題チーム(8月からは課題10チームと合同)を引っ張ってくれたことが、討議の活性化に大いに寄与してくれたことを挙げておきたい。

4.討議の成果到達点・チーム参加者の感想
  会報68号掲載の前回中間報告以後の実施経過について記しておきたい
 11月17日 当チームの課題が抱える問題点とその討議状況は、本会の他のメンバーにとっても共に考えてもらう価値があるものだとの判断に立ち、本会の分科集会の開催を企画し、竹内・会員に「福島第一原子力発電所事故の賠償問題を巡る論点整理−国と東電の関係の推移−」で講演をしてもらうとともに、合同の課題10チームの小島・会員からは風評被害に関する論点整理の提起をしてもらった。
 ここでは時間的制約があり十分な討議はできなかったが、竹内・会員からは「脱原発か原発維持かの論争においては、冷静になり、今回得られる原発の安全保安対策のノウハウを生かす責務等が我が国にはあること、そして新興国等での原子力産業の維持発展に貢献することも大切ではないか。」との提言もなされた。
 1月31日 合同の課題10チームの佐伯・会員から、今回の原発プロジェクトに参加して色々なことに関心が向き出し調べていくうちに、「私が今まで経験してきた世界では、技術的な常識が通用してきたが、この常識が原子力村では通用しなかったのではないかと考えるようになった。」との述懐があった。そして、知人からのメールで「今回の事故は電源喪失ではなく受配電設備損壊事故と言うべきです。」と知らされたこと、「原発の現場には溶接の熟練工がいないので素人を経験不問で募集している。熟練すると年間の許容線量を使ってしまって中に入れない。」などを話してくれた。
 最後に佐伯・会員自身としては、その他種々出てくるメンテナンスの不備を知った今は、原発推進について懐疑的になっていると吐露された。
 2月22日 今回、課題チーム全体が一応締め括りをすることになったことを受けて、課題7と10の合同チーム参加者による当プロジェクト参加の成果・感想を述べ合い、身近なコメントを持ち寄ることにし、最終報告の形を整えていくことにした。
 なお、課題7のリーダーを勤めさせていただいた圓山としては、最後のレポートとして、篠原一著「市民の政治学 −討議デモクラシーとは何か−」(岩波新書2004年発行)の一節を引用し、「政治社会の変容の中では討議の重要性を再認識し、新しい社会の像、政治の形を展望していくこと」の重要性について触れさせていただいた。
 当合同チームを締め括りにあたっての全員の感想として、「合同チームの討議を通し、お互いこれまで深く考察することが少なかった領域の視点や知識に触れ得たこと、そして結果として討議そのものを楽しめた。」との見解も多く出された。この成果を生かし、今後も引き続き討議を深めつつ、各自の活動に繋げて行くことにした。   

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